科学・医学文献

日光が患者の健康回復を促進

日光が患者の健康回復を促進 Phychosomatic Medicine 誌 2005 年1〜2月号の記事より

INDEX

最近のアメリカにおける研究

良い影響

日光の強度が重要

痛みとストレスのモニター

鎮痛剤の使用量の低下


最近のアメリカにおける研究

日光が、ストレスを緩和し、痛みをやわらげ、術後回復期患者への鎮痛剤使用量を減少させる可能性があることが、最近のアメリカにおける研究により明らかになりました。
「日光を浴びて、悩みを解消。」 こんなアドバイスは、ポピュラー・ソングの歌詞やビーチ・リゾートの宣伝文句のように聞こえるかもしれません。 しかし、最近の研究によれば、これには一理あるようです。 研究により、手術後の患者の病室が病院の日の当たる側にある場合は、患者は心理的なストレスや苦痛を感じることが少なく、鎮痛剤の使用量も少なくて済むことがわかりました。 この研究の指揮を執ったのは、ピッツバーグ大学の医療研究者ジェフリー・ウォルチ医学博士(Jeffrey Walch M.D.)です。 ウォルチ博士は建築学の資格も持っており、建築設計と環境要因が入院患者の回復に与える影響に関心を抱いていました。

良い影響

光が季節的な情緒障害への対抗策となりうることについては、文書による十分な裏付けがあります。 それ以外にも、光が入院患者に良い影響を与えることを示唆する研究もあります。 たとえば、光の照射は、心臓発作患者の入院日数の減少と関連があります。 また、他にも、光が神経伝達物質のセロトニン濃度を上昇させ、セロトニンが中枢神経系の痛覚の伝達経路を阻害することを示す研究があります。 そこで、ウォルチ博士および共同研究者は、日光が入院患者のストレス感覚、痛みの知覚、および鎮痛剤の使用に好ましい影響を与えるかどうかを調べることにしました。
調査は、脊髄手術を受ける直前の被験者89名を対象に行われました。単純に病室の位置関係から、44名は日当たりの良い病室に、45名は日当たりの悪い病室に入院しました。 この条件下において、ウォルチ博士のチームは、日当たりの良い部屋に入院した患者が、人口統計学や臨床診断、手術手順、入院前の鎮痛剤使用量、手術室内での鎮痛剤使用量、および手術後の麻酔後回復ユニットでの鎮痛剤使用量に関して、日当たりの悪い部屋に入院している患者と大きな差が出ないようにしました

日光の強度が重要

手術後、被験者が麻酔後回復ユニットから病室に移されてから、患者が退院するまで、研究者は病室で、日光の強度を毎日測定しました。 日々の病室内における日光強度が総合的に測定されました*。
測定した結果、日当たりの良い病室の被験者は、日当たりの悪い病室の被験者よりも平均で46パーセント高い強度の日光を浴びていたことが判明しました。

 

* 午前中に5回、午後に5回、室内の直射日光(部屋に入った位置での日光の強度)、反射光(患者に反射する日光の強度)、周辺光(室内表面で反射する日光の強度)を測定しました。 また、午前の直射日光、反射光、周辺光の強度の測定結果が平均化されました。 同様に午後の直射日光、反射光、周辺光の強度の結果についても行われました。 それから、午前中の結果に午前中の時間数を掛け算して、午後の結果に午後の時間数をかけました。 その後、午前と午後の日光強度の結果の合計が加算されて、その日の累積日光強度が算出されました。

痛みとストレスのモニター

日向側および日陰側の被験者ともに、手術後には同じ程度の不安、抑鬱および痛みを経験しました(麻酔後回復ユニットからの退出時)。 また被験者は退院時にも同程度の不安と抑鬱を感じ、そのレベルは、被験者が麻酔後回復ユニットを退出した時点で感じたものと似たものでした。
しかし、退院時のストレス・レベルは、日当たりの良い部屋のグループは、日当たりの悪い部屋のグループよりも著しく低いことがわかりました。 日当たりの良い部屋のグループのストレス・レベルは、麻酔後回復ユニット退出時よりも退院時の方が低くなっていましたが、日当たりの悪い部屋のグループには、このような傾向は見られませんでした。 どちらのグループも、病院退院時には麻酔後回復ユニット退出時よりも痛みが小さくなっていましたが、日当たりの良い部屋のグループの方が日当たりの悪い部屋のグループよりも、かなり痛みが小さいと報告されました。

鎮痛剤の使用量の低下

被験者が、入院中に使用した鎮痛剤の量についても評価がおこなわれました。 日当たりの良い部屋のグループは、日当たりの悪い部屋のグループよりも、鎮痛剤の使用量が22パーセント少なかったことがわかりました。
「結果には満足しています」と、ウォルチ博士は「サイカイアトリック・ニューズ誌」に語っています。「このテーマがさらに調査されれば、今後の病院設計にも影響を与えると思います。 ストレスの低下が示されただけでなく、痛みの知覚低下や鎮痛剤使用量の低下も示されたことに驚きました。」ウォルチ博士によれば、もう一つ驚いたことは、日当たりの良い部屋のグループは、病院退院時に感じたストレスが著しく低かったことです。 これは統計学的には、日当たりの良い部屋のグループの鎮痛剤使用量が少なかったことと関連はありません。 したがって、博士は、被験者の鎮痛剤使用量が減ったことが心理的ストレスを減らしたとは考えてはいません。 博士は、「これはまったく別の結果です」と語っています。